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鳥取地方裁判所 昭和23年(行)11号 判決

原告

今川重夫

被告

鳥取県知事

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告が昭和二十三年三月十日別紙目録記載の建物について為した買収処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とす。

事実

原告訴訟代理人は、その請求原因として、被告は自作農創設特別措置法第十五条の規定に基き昭和二十三年三月十日別紙目録記載の建物を買収する旨の買収令書を発行し原告は同年二十九日その交付を受けた、しかし右建物は元訴外船越喜一郞の所有であつたのを原告の父今川嘉太郞が買受け更に原告が家督相続により取得したものであるが船越は親戚であるので同人に引続き無償で使用させていたものであるのに被告は船越が右建物につき賃借権を有するものと誤認し買収の対象としたもので右買収処分は違法であるからその取消を求めるため本訴に及んだ旨述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め本案前の答弁として原告は本件買収処分の前提である買収計画に対し異議の申立をも訴願をもしなかつたから買収処分の取消を求める本訴は不適法である、本案につき被告が原告主張の日その主張の如く買収令書を交付した事実原告主張の建物は元訴外船越喜一郞の所有であつたが原告の父今川嘉太郞が買受け更に原告が家督相続により取得した事実原告が船越に右建物を引続き使用させている事実はこれを認めるがその余の原告主張の事実を否認する。船越は原告から右建物を賃借していたものであるから被告は右建物を買収したものその処分に何等の違法がないから原告の請求は失当である旨述べた。(立証省略)

理由

被告は原告が本訴において別紙目録記載の建物につき自作農創設特別措置法第十五条の規定に基く買収処分の前提である買収計画に対し訴願の段階を経ず直接右買収処分の取消を求めるのは不適法である旨主張するから先ずこの点について按ずるに凡そ同法による建物買収計画の取消を求める訴が訴願の段階を経なかつたため提起不能となつた場合でもそれは爾後買収計画としては取消を許さないという効果を生ずるにとどまりこれにより当該建物につき最終的に買収適格のあることが確定される訳ではなく後に知事の買収令書交付による買収処分の取消の訴を提起し当該建物が買収不適格のものであることを主張するを妨げないものと解すべきであるからあながち買収計画に対する訴願をしなくても買収処分の取消の訴を提起することは違法でない。而して被告が自作農創設特別措置法第十五条の規定に基き昭和二十三年三月十日付別紙目録記載の建物を買収する旨の買収令書を同月二十九日原告に交付した事実は当事者間に争いがなく原告において法定の訴提起期間内である同年四月十九日本訴を提起した事実は訴状に押されてある受付印に徴し明白であつて本訴は適法であるから、被告の右主張は採用することができぬ。次で本案につき審按するに別紙目録記載の建物が元訴外船越喜一郞の所有であつたが原告の父今川嘉太郞が買受け更に原告が家督相続により取得した事実原告が船越に右建物を引続き使用させている事実は当事者間に争いがないけれども右建物の使用が無償で為されている事実についてはこれに沿う原告本人の供述の一部はたやすく措信し難くその他原告の提出援用に係わる全立証によるもこれを認めるに足らず却つて前記争いのない事実に証人船越喜一郞の証言原告本人の供述の一部を総合すれば船越は昭和四年八月頃原告の父今川嘉太郞に右建物を売渡すと同時にこれを同人から賃借しその賃料の支払の一方法として右建物の公租公課は船越において負担すべき旨を約して爾後これを賃借居佳していた事実原告が昭和五年三月嘉太郞の相続をし右賃貸人の地位を承継した事実を認めるに十分であるから船越に右建物の賃借権がないことを前提とし本件買収処分を違法としてその取消を求める原告の本訴請求は失当であると謂わねばならぬ。よつて原告の請求はこれを棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決した。

(福永 大倉 柚木)

(目録省略)

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